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明日から天竺

今から一年以上前のこと。
ナグプールにあるインド仏教会本部インドーラ寺院の
僧房にいたワシは、佐々井秀嶺師に呼ばれた。
「ゲストハウスの管理人のおばあちゃんが、あぶない
ようなんだ。様子を見に行ってくれないか」
佐々井師のもとを訪ねた経験のある方なら、おそらく
みな、そのおばあちゃんの世話になったことがあるの
ではないか思う。痩せて、物腰おだやかな老婦人だ。
出かけようとするワシを佐々井師は呼び止め、
「これ持ってけ」
自分が着ていた袈裟を脱いで、手渡された。
「頼むぞ。俺もすぐ行くから」

町外れのゲストハウス。白い二階建ての建物。
下の部屋に入ると粗末なベッドの上におばあちゃんが
横たわっている。かなり意識レベルが落ちていた。
佐々井師から預かった袈裟をおばあちゃんの体に掛け
てあげる。そして耳元で、
「ほら、ササイ・ジーが来てくれたよ、元気出して」
すると一瞬、おばあちゃんの目に輝きが戻った。
(これからどうすりゃいいんだ?)
ヒンディー語は話せても、次に自分がなにをしたら良い
のか分からない。家族に容態を聞くと、今夜が山、と。

おばあちゃんが歩んできた人生を思い、胸が詰まった。
不可触民と呼ばれて蔑まれ、佐々井師に出会うまでは
“人類”として扱われなかった、ひとりの女性。
シルクのサリーなど一度も着たことがない、貧困と抑圧
に耐えてきた釈迦の国の仏教徒が今、臨終を迎えよう
としている・・・。
手をこまねいて立ちすくんでいるところへ、佐々井師が
やって来た。
おばあちゃんのため、一生懸命に祈るササイ・ジー。
この人は、今日まで四十年以上、こうして民衆のために
祈り続けてきたのだ。そう思うとさらに胸が詰まった。

帰り道、佐々井師から怒鳴られてしまった。
「なにをボサッと突っ立ってやがったんだ!お前は!」
その目尻が、銀色に光って見えた。

明日から一週間、ナグプールへ行ってまいります。

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