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2014年5月

輪廻と虫ケラ

輪廻と虫ケラ
今回紹介するインド映画は昨秋日本でも公開
されたアクション・コメディ『マッキー』。
恋人を悪漢から守りたい一心で転生を願った
青年がハエに生まれ変わって大暴れ、という
痛快娯楽作品だ。
日本公開時にはキワモノ的な扱いであったが、
輪廻思想の御本家インドならではの生命観に
基づいた物語作りと最先端のCG映像は必見。
そして何より、小さくか弱き者への愛に満ち
た生命讃歌(もちろん汚物コミの)が心を打つ。

【あらすじ】
イベントの花火サービス業を営む青年ジャニ
は美しい娘ビンドゥに首ったけ。一途な恋が
実を結んだ矢先、富豪のスディープが横恋慕。
袋叩きの目に遭わされながらも、
「彼女に近付いたら…あんたを殺す」
その言葉も虚しく青年は惨殺されてしまう。
だが彼のアートマ(魂)は側のドブ川に浮かぶ
ウジ虫に入り、ハエとして転生!復讐の幕が
切って落とされた…。

さて物語の背景にはヒンドゥー教の霊魂観と
輪廻思想がある。
アートマ(魂)は常住であり輪廻の繋縛を離れ
ることは出来ないという教義。これを否定し、
解脱を説いたのがブッダであるが、一旦おく。
日本人の楽天的な「生まれ変わり」幻想では
前世も来世も人類だと勝手に思い込まれてる
フシがあるが、本家本元の輪廻思想はそんな
生易しいものではない。
四姓カーストのうち転生可能な階級は上から
三番目まで、四番目以下は転生ではなくただ
“虫のようにわいてくる”とされる。人間で
あるにも関わらずだ。その被抑圧階級(Dalit)
がブッダの教えを奉じて、ヒンドゥー教から
仏教へ改宗しているのが現代インドである。

映画『マッキー』では、ハエに転生した青年
を調伏すべく呪術(タントラ)師も登場、鳥の
魂を操ってハエを喰らおうとするが逆に撃退
されてしまう。迷信や教条がハエに敗北する、
という強烈な皮肉になっている。
インドの近代化を支えるのは、まさにこの
「底辺からの視線」
なのである。しかも、ハエだけに複眼視線。

また、主題歌の詞には“マッキー(ハエ)”と
韻を踏んで“ナラッキー”と歌われる。これ
は日本語化したサンスクリット語「奈落」を
人格化した駄洒落。ナラクは地獄の原語だが、
歌舞伎では舞台の地下を意味する。奇しくも
スディープ役の声を吹き替えた中村獅童氏は
歌舞伎界の人。

もちろんそんなディテールに注目しなくても
充分に楽しめるエンターテインメント作品。
文字どおり「五月蝿」の季節、レンタル店で
見つけたら是非とも御覧ください。
ラストのドンデン返し、ジャニの魂がハエの
次に転生したのは一体…?!

【第25回東京国際映画祭正式出品作品】

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