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2014年11月

青春の菩提樹

青春の菩提樹
現代インド仏教の特徴を一言で表すとしたら、
それは《若さ》である。
無論、復興してからまだ六十年と経っていない
という時間的理由…13世紀初頭イスラム勢力に
よる破壊と虐殺でインド史の表舞台から消し去
られた…もあるが、若者にとって仏教が「未来
を開く社会運動」であることが大きい。
インドに仏教を復活させた“不可触民”出身の
初代法務大臣アンベードカル博士は、青年達に
「Education, Unity, Struggle」
(学ぼう、団結しよう、そして闘おう)
と呼び掛けた。ちなみにヒンディー語で団結を
意味するサングティ、闘争のサンガルシュは、
仏教のサンガ(共和。僧伽と音写)に語感が通じ
ている。つまり、仏教の故国に於いて僧とは、
紫衣金襴にくるまれた貴族ではなく〈共に歩む
活動家〉を言葉の響きに含むのである。

ナグプール市中央、アンベードカル大学。
青々と繁る菩提樹の下で、キャンパスの青春を
謳歌する仏教徒の若者達と出会った。
最初、拙に気付いた女の子が唇に人差し指を当
てて「チュプ!(Quite)」。菩提樹下は聖域でも
あるため、ふざけているとバンテー(坊さん)に
叱られると思ったようだ。
「いいさ、続けなよ。ここの学生さんだろ」
かなりスラングに近いヒンディーで話すと一同
安心した様子で笑う。「君ら、専攻は?」
経済、社会福祉、法学など、それぞれ異なる。
「ひとつ質問していいですか?」
と眼鏡をかけた男子学生。
「僕が思うに、仏教は四聖諦と八正道に十波羅
蜜を本気で現実社会の中で実践していけば、後
の理屈はどうでもいいんじゃないか、と」
見事に本質を突いていた。
ふと、『歎異抄』に記された親鸞の言葉、
《総じて以て存知せざるなり》
を思い出し、鳩尾に一撃を喰らった気がした。
「ちょっとぉ!そんなこと言ったらお坊さんが
困るに決まってんじゃん、あんたバカねえ」
女の子が助け舟。面目ない。

みんな一緒に記念写真を撮ろう、と言ったら、
インドのしきたりで未婚の若い女性が宗教者と
並ぶことは非礼に当たる、と固辞された。
そこで拙を真ん中にして左右に男子学生二名が
ポーズ。「3 Idiots」
日本でも公開されたボリウッド映画のヒット作
のタイトルを拙が言うと、一同、大爆笑。
邦題は『きっと、うまくいく』であったが直訳
すれば三馬鹿大将といったところだ。
「えーっ、なにそれ!お坊さんもバカなの?」
女の子がケラケラ笑う。
青き菩提樹の木陰に、黄色い声が弾けた。

さて、彼ら元“被抑圧階級”の若者達が青春を
謳歌できるのはひとえにアンベードカル博士の
おかげだ。そして仏教復興運動指導者:佐々井
秀嶺師のお膝元ナグプール市に居るからこその
青春、ともいえる。
例えばインド北部のヒンドゥー教徒が多数派を
占める地域へ行けば、まさに連日連夜の闘いが
彼らを待っている。そのことを聞いてみた。
「分かってます。従兄がU.P.州で働いてるので
どういう目に遭わされるかもね。でも僕は闘い
ますよ。逃げたら後悔するのは僕自身だから」
ファイターだな君は。

「おまえ今、女子の前でカッコつけたろ?」
もう一人が冷やかす。
菩提樹の木陰に、再び笑い声が響いた。

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